結晶塑性理論を用いた繰返し塑性変形挙動の検討概要製品設計・開発コストの低減や新しい製品製造工程の開発を補助するツールとして,有限要素法(FEM)を代表とする数値シミュレーターに対する期待は大きい.しかしながら,スーパーコンピュータや並列コンピュータ等のハード技術が発展した現在に至っても,計算結果と実成形品との形状には明らかなずれが生じるという報告が多数行われ,高精度数値シミュレーターに対する要望は非常に多い.この問題を解決する1つの手法・提案として,“材料モデルの高精度化”が挙げられる.材料モデルの高精度化は社会的・工業的なニーズではあるが,現在の汎用数値シミュレーターではこのような高精度化を行うことが不可能である. そこで従来膨大な計算コストのために解析不可能であった結晶塑性理論が注目されつつある.この理論は,従来の塑性ポテンシャル理論に基づいた降伏関数(曲面)の形状変化や移動によって塑性異方性(初期異方性やバウシンガー効果)を表現するのではなく,結晶粒(単結晶)の変形挙動と結晶方位の分布(集合組織)に関する情報から実際の結晶のすべり変形機構をモデル化して複雑な応力-ひずみ挙動を再現するものであり,特別な考察が無くても材料の塑性異方性を再現できるものとしてその有用性がTaylor,Bishop-Hillの理論(TBH理論)によるひずみ一定モデル,Kurodaらの拡張Taylorモデルによる初等解法,そして,Asaroらの大ひずみ塑性加工問題に対する弾粘塑性結晶有限要素法によって報告されている. 本研究では,多結晶体の応力-ひずみ関係を正確に再現するために,それを構成する単結晶(一結晶粒)の材料モデルの高精度化に着目した.通常の金属材料は単結晶の集合体であるために,この単結晶の応力-ひずみ関係を記述する材料モデルの精度が巨視的塑性変形として得られる応力-ひずみ挙動の精度に影響を及ぼしていると考えられるためである. 基本原理▲拡張テイラー解析概念図…拡張テイラー解析は,試験片に加わる変位が全ての結晶粒に対して同じように加わるという仮定に基づいた解析手法であり,これが計算時間を大幅に短縮する特徴を生み出す.この方法により,大掛かりな弾粘塑性有限要素法解析を行わなくても,簡単な解析であれば,解析に使用した材料モデルの特徴を直接検討することが可能である. 基本構成式▲本研究で使用した単結晶の構成モデルは,Armstrong-Frederick型の背応力をHutchinsonとPan-Riceが用いた指数則に適用したものである. ▲背応力を微視的に考察すると,結晶粒界上に堆積した転位が応力反転後に逆方向に容易にすべるために起こる軟化現象として表現できる.単結晶であれば,塑性変形の進行によって単結晶内で転位が複雑に絡み合い,応力反転後に転位の絡み合いが消えるために起こる軟化現象として表現できる. 解析結果▲拡張テイラー解析にて,単結晶にバウシンガー効果を考慮した構成式を適用した結果,巨視的応力-ひずみ関係において応力反転直後の非常になだらかなバウシンガー効果を計算することができた.この結果から本研究で提案した手法の有効性が確かめられた. 本研究に関する論文・発表など・濱田和明, 吉山賢司, 上森武, 吉田総仁: 結晶塑性有限要素法による繰返し塑性解析, 日本機械学会中国四国支部第42期総会・講演会講演論文集, No.045-1, (2004.3), pp.119-120. |