高張力鋼板の張出し成形性


概要

 高張力鋼板は,自動車車体などの軽量化による省資源,省エネルギー,コストダウン,および衝突安全対策を実現するためにその使用量が増大している材料である.今日では,成形性に優れた高張力鋼板が相次いで開発されているが,未だに成形時における問題点が存在する.例えば,強度上昇によるしわや面ひずみなどの面形状不良,スプリングバックによる寸法精度不良,材料の延性の低下による張出し性・伸びフランジ性の劣化や曲げ破断限界の低下,さらにはプレス機械の能力不足や成形品の修正工数の増加などが指摘されている.それらの問題を事前に予測するためには,高張力鋼板の基礎的な塑性変形挙動を調べる必要がある.

 本研究では,各種強度の高張力鋼板を用いて球頭張出し試験を行い,成形限界ひずみを調査した.比例変形における基礎的な成形限界ひずみ調査に加えて,実際のプレス加工において重要な非比例変形経路の成形限界ひずみを調査する実験も行った.また,この実験結果より数値シミュレーションを行う上で重要な成形限界線図(FLD)を作成し検討を行った.

 なお,本研究は弓削商船高専・中哲夫先生の研究室との共同研究である.また,本研究の一部は広島県産業科学技術研究所の支援のもとに行われた.


実験方法

試験片1 試験片2

▲本研究で用いた試験片の写真を示す.左は試験前の試験片で,ひずみ計測用のスクライブドサークルをスタンプしている.右は張出し試験によってドーム状に変形し破断した試験片を示す.

実験装置 装置拡大図

▲張出し試験装置(左:全体図,右:拡大図)…本研究に用いた実験装置を示す.装置は容量250kNのインストロン型万能試験機に球頭張出し装置を組み付けたものである.ボルト8本でブランクホルダーを締付けることによって試験片を固定し,これを半径51mmの球頭パンチによって張り出す.ブランクホルダーおよびダイスにはビードが設けられており,試験片の流入が生じないようにしてある.パンチと試験片の潤滑にはテフロンシートとグリースを用い摩擦を極力低減させた.


実験結果

FLD

▲実験結果…高張力鋼板(590MPa級ハイテン)のFLD(成形限界線図: Forming Limit Diagram)を示す.ここでは比例変形におけるFLDと,非比例変形(一次変形を等二軸引張りとした場合)におけるFLDを併せて表示している.比例変形におけるFLD(●印)は等二軸引張側に大きく張り出した特徴的な形であることがわかる.また,一次変形を等二軸引張りとした二次成形限界(●印●印)は,通常の比例変形における成形限界(●印)よりも大幅に低下することが確認できる.


本研究に関する論文・発表など

・越智一晃, 畑瀬雄一, 中哲夫, 吉田総仁: 高張力鋼板の張出し成形性, 日本塑性加工学会中国四国支部第5回学生研究発表会講演論文集, (2004.12), (pp.1-2).


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