局所加熱を伴う薄板のインクリメンタルフォーミング


概要

 近年,コストのかかる金型を用いずに薄板を成形するインクリメンタルフォーミング(逐次張出し成形法)が注目されている.この方法により意匠性のある製品の低コスト多品種少量生産が可能であり,また通常のプレス成形よりも成形限界が大幅に向上するといった利点も明らかになっている.一方,工業製品の軽量化の観点から,5000系などの高強度アルミニウム合金板やマグネシウム合金板などが注目されている.しかし,これらの板材は室温において成形性が悪いため,通常のプレス成形は困難であるという問題がある.

 そこで,本研究では軽量・難加工板材の多品種少量成形加工を可能にする技術の確立を目標として「局所加熱を伴うインクリメンタルフォーミング」を提案している.局所加熱によって板材加工部分の変形能を向上させ,その部分を逐次張り出すことで軽量・難加工材のフレキシブルな成形が可能になると考えられる.そのため,局所加熱逐次張出し装置を新たに製作し,A5083アルミニウム合金板の局所加熱逐次張出し実験を行って成形性に及ぼす局所加熱の効果などを調査している.


成形原理・実験方法

成形原理1

成形原理2

▲成形原理図…本研究における成形法の概要を示す.上は運動工具のみによる成形,下は運動工具・固定工具併用による成形である.従来の逐次張出し成形法との違いは,工具内のカートリッジヒータおよび熱風により材料の成形部分を局所的に加熱するという点であり,これが本成形法の特徴である.この方法により,大掛かりな加熱金型を使うことなく難加工金属薄板の成形加工が可能になると考えられる.

成形の様子1 成形の様子2

▲成形途中の様子…左は運動工具のみ,右は運動工具・固定工具併用による円錐成形.ブランクの材質はいずれもA5083P-O,工具は直径14mmの球頭パンチ,工具速度は1mm/secである.

温度分布1

温度分布2

▲成形途中のブランク温度分布(サーモグラフィー画像)…上は工具ヒータと熱風ヒータを併用した場合で,ブランク上面温度は約590K,下面温度は約490Kである.一方,下は工具ヒータのみの場合で,ブランク上面温度は約430K,下面温度は約480Kである.なお,工具内部ヒータの設定温度は873Kとし,熱風ヒータを併用する場合は熱風温度を673Kと設定した.工具接触点におけるブランクの温度は500K前後に達しており,温間におけるA5083P-O材の成形性向上効果が現れるものと考えられる.


実験結果

成形品の例

▲A5083P-O材の局所加熱を伴う逐次張出し成形品(円錐成形品)の例.運動工具・固定工具併用で斜面傾斜角15度の円錐が成形できている.

成形限界ひずみ

▲A5083P-O材の局所加熱を伴う逐次張出し成形品において測定された最大主ひずみを,同材の温間(温度473K)FLD上にプロット(印)したものである.局所加熱逐次張出しにおける成形限界ひずみは,通常の金型を用いた温間成形における成形限界ひずみよりも格段に高い値を示すことがわかる.

なお,温間FLDは下記文献からの引用である.
中哲夫, 鳥飼岳, 日野隆太郎, 吉田総仁: 5083アルミニウム合金板の温間FLDに及ぼすひずみおよびひずみ速度硬化の影響, 塑性と加工, 43-492 (2002.1), pp.66-70.

成形性向上

▲この図は,運動工具のみによる逐次張出し,および運動工具・固定工具併用逐次張出しにおいて,工具ヒータによる局所加熱を行うことで成形性がどれほど向上するかを示したものである.A5083P-O材は常温では全く成形できなかったが,局所加熱を伴う運動工具・固定工具併用逐次張出しにおいては傾斜角15度,最大主ひずみ1.34まで成形できている.このように局所加熱を伴う逐次張出しによって成形限界が格段に向上することが明らかとなり,本研究で提案した成形技術の有効性が確かめられた.


本研究に関する論文・発表など

・平木隆一, 日野隆太郎, 吉田総仁: 局所加熱を伴う薄板のインクリメンタルフォーミング, 日本機械学会中国四国支部第42期総会・講演会講演論文集, No.045-1, (2004.3), pp.127-128.

・日野隆太郎, 平木隆一, 中哲夫, 吉田総仁: 局所加熱を伴うインクリメンタルフォーミング, 平成16年度(第35回)塑性加工春季講演会講演論文集, (2004.5), pp.381-382.


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