高精度・低精度解析モデル併用手法を用いた塑性加工条件の最適化


概要

 近年,工業製品のコスト削減とリードタイムの短縮が強く求められており,その要求に応えるため,材料の最適加工条件を効率よく見つけることが重要となっている.現在,最適加工条件の探索は一般的に数値シミュレーション(特に汎用有限要素法コードによる計算)によって行われているが,シミュレーションの計算結果の判断や,その結果に基づいた加工条件の修正は,技術者の経験と勘に頼っている.そのため,数値シミュレーションの計算結果を自動的に判断し,加工条件を修正するといった最適化システムの確立が望まれている.

 本研究では,様々な塑性加工について,最適化手法と数値シミュレーションを組み合わせることにより,最適加工条件を自動的に探索する最適化システムの構築を目的としている.一般的に最適化計算は計算時間が非常に長くなるという問題があるが,本研究では高精度解析モデルと低精度解析モデルを併用する手法を用いた高速最適化システムを構築し,解の精度を損なうことなく計算時間を短縮しようとしている.


高精度・低精度解析モデル併用最適化法

高精度・低精度併用手法

▲高精度・低精度解析モデル併用最適化法…一般的な最適化手法においては問題設定後に最適化計算するという流れになるが,本手法においては最適化計算を行う前に数値実験を行い,実験計画に基づいて高精度モデルと低精度モデルの両モデルについて目的関数と制約関数値を算出する.その両者を比較し最小二乗近似によって低精度モデルの目的・制約関数値を修正する近似関数を作成する.その後の最適化計算は低精度モデルのみを用いて行う.ただし低精度モデルの目的・制約関数値をそのまま用いるのではなく,先に作成された近似関数によって修正された値を用いる.この手法を用いることで解の精度を損なうことなく最適化計算時間を短縮できると考えられる.
 ここで高精度モデルとは計算時間は長いが,実成形に近い結果を与える解析モデル(例えばメッシュの細かい有限要素モデル)であり,一方,低精度モデルは計算時間は短いが精度が悪い解析モデル(例えばメッシュの粗い有限要素モデル)を指す.


MARS

Multipoint Approximation based on Response Surface methodology

MARS

▲最適化アルゴリズムは,Toropovによる「MARS (Multipoint Approximation based on Response Surface methodology)」を採用している.
 これは応答曲面法の一種であるが,設計空間全体の応答曲面を作成するのではない.ある副領域(Sub-domain)内で部分的な応答曲面を作成し,副領域内の暫定最適解を求め,得られた結果に応じて副領域の移動・縮小を行い,次ステップの副領域とする.これを繰り返して最適解を得る.

なお,MARSについては下記文献に詳しい.
V. V. Toropov: Structural Optimization, 1(1989), pp37-46.


構築した最適化手法の適用例

1.角筒深絞りブランク形状最適化

問題設定 問題設定

▲角筒深絞りのブランク形状最適化…角筒深絞り製品のフランジ部は目的形状線に合わせて切断され,切断された部分は廃棄される.そこで,廃棄される材料の量を最小化するようなブランク形状を求める.成形前のブランクを単にコーナーカットした場合,およびスプライン曲線形状に切り出した場合について最適化を行った.設計変数はブランク形状を決定する4つの値,目的関数は成形品投影面積α,制約条件は形状保証,および局部的板厚減少抑制による破断の回避とした.

■最適化計算結果(コーナーカットの場合)■

コーナーカット結果図

コーナーカット結果表a

■最適化計算結果(スプライン曲線形状の場合)■

スプライン結果図

スプライン結果表

▲結果…高精度・低精度併用最適化法を用いて得られた解は高精度モデルのみで得られた解とほぼ同じ良好な解となり,また計算時間は大幅に短縮されていることがわかる.さらに検証実験を行った結果,若干の誤差はあるものの最適解は概ね妥当であることがわかった.
 なお計算結果と実験結果の差は数値シミュレーションの誤差に起因するものであり,最適化システム自体は正しく動作している.数値シミュレーションの精度が向上すればより良い最適解が得られるものと考えられる.

2.鍛造加工における最適加工条件の検討

模式図

▲パイプの局所加熱鍛造加工の最適加工条件の検討…熱間鍛造加工において,材料の加熱条件は非常に重要な要素である.そこでパイプの局所加熱鍛造加工を例に取り最適加工条件の検討を行う.この加工は上図のようにパイプの一端を局所加熱した後,他端を軸方向に圧縮することで,フランジの付いたパイプを成形することを目的としている.設計変数は局所加熱条件(加熱温度,加熱幅),および金型形状である.目的関数はフランジ部の材料体積であり,制約条件は成形後の形状や成形加工荷重,および成形時の材料巻き込み回避などとした.

解析結果

▲最適化計算結果…最適解における局所加熱温度分布,および成形後の温度分布を示す.フランジ付きパイプを成形できていることが確認できる.また,高精度・低精度解析モデル併用手法による最適化計算結果は,低精度解析モデルのみを用いた場合に比べ良好な精度を示す一方,計算時間は高精度解析モデルのみの場合の約5分の1に短縮することができた.


本研究に関する論文・発表など

・日野隆太郎, 吉田総仁, V.V. Toropov: 高精度・低精度解析モデルの併用による角筒深絞りブランク形状最適化, 第53回塑性加工連合講演会講演論文集, (2002.11), pp.279-280.

・R. Hino, F. Yoshida and V.V. Toropov: Optimum blank design for sheet metal forming process using high- and low-fidelity models, Short Papers of The Fifth World Congress of Structural and Multidisciplinary Optimization(WCSMO5), (2003.5), pp.435-436.

・日野隆太郎, 浅野勇一, 菊池啓作, 吉田総仁, V. V. Toropov: 高精度・低精度解析モデルの併用による角筒深絞りブランク形状最適化(第2報 重み係数による近似精度向上), 平成15年度(第34回)塑性加工春季講演会講演論文集, (2003.5), pp.197-198.

・日野隆太郎, 浅野勇一, 吉田総仁, V. V. Toropov: 高精度・低精度解析モデルの併用による角筒深絞りブランク形状最適化(第3報 実験結果との比較検討), 平成16年度(第35回)塑性加工春季講演会講演論文集, (2004.5), pp.217-218.


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