高張力鋼板の繰り返し塑性変形挙動とそのモデル化概要衝突安全性の向上とボディー軽量化の両方を同時に実現するために自動車車体や自動車部品の高張力鋼板(ハイテン)化が各自動車会社を中心に精力的に行われている.特に近年では,自動車部品に対して更なる軽量化,高強度化が求められていることや,より高強度なハイテン板の作製が可能になったことを背景に,自動車構造部品をハイテン化しようとする試みは増加傾向にある. しかしながら,高張力鋼板は,成形荷重が非常に高い,従来のプレス用鋼板と比べて延性に乏しいためプレス成形中に予期せぬ破断を起こしてしまう,そしてプレス成形後におけるスプリングバック量が非常に大きい等の様々な問題を持つ難成形材料であり,従来のプレス用鋼板に対する成形技術を安易に適用することができない. これを解決するため,各自動車会社を中心にスーパーコンピュータ等を用いた数値シミュレーション予測が行われているものの,コンピュータテクノロジーが発展した現在に至っても満足な結果を予測することができていない.このような問題が生じる原因の一つとして,我々の研究グループが指摘した「従来のコンピュータプレス成形シミュレータの中に高張力鋼板の複雑な応力-ひずみ関係を正確に再現し得る構成式が無いという問題」がある.これは,正確な数値解析を行うためには,正確な応力-ひずみ関係の実験データは勿論,それを非常に精度良く再現できる材料モデル(弾塑性構成式)の存在が必要不可欠であるということである.この考えは近年ようやくプレス成形シミュレーションをより高精度にする画期的な手法として世界的に認識されはじめた. そこで,本研究では高精度プレス成形シミュレータの確立を念頭に置いた構成式(応力-ひずみ関係を記述する式)の提案を行い,その有用性の検証を行った. 実験原理・実験方法▲プレス成形中および成形後における応力-ひずみ曲線概念図.材料は反転負荷(引張→圧縮など)を受けるため,そのときのバウシンガ効果(反転負荷時の降伏応力低下現象)などを正確に記述できる材料モデルが必要となる. ▲繰返し面内反転負荷実験の概念図.板材を積層した試験片を用いることによって圧縮時の座屈を防止し,板材の面内反転負荷を可能にした. 実験結果▲大ひずみ域における高張力鋼板の繰返し面内反転負荷応力-ひずみ関係(実験データ). 実験結果と解析結果の比較▲我々の研究グループが提案した二曲面モデルの概念図.このモデルは7つの材料パラメータを持つ.
本研究に関する論文・発表など・Fusahito Yoshida, Takeshi Uemori and Kenji Fujiwara: Elastic-plastic behavior of steel sheets under in-plane cyclic tension-compression at large strain, International Journal of Plasticity, 18 (2002.10), pp.633-659. ・Fusahito Yoshida and Takeshi Uemori: A model of large-strain cyclic plasticity for sheet metals describing the Bauschinger effect and workhardening stagnation, International Journal of Plasticity, 18 (2002.10), pp.661-686. |