降伏点現象を考慮した鋼の繰返し粘塑性構成式とその応用背景と目的焼鈍した軟鋼の単軸引張り試験における応力-ひずみ曲線では鋭い上降伏点からの急激な降伏降下が見られ,その後には応力一定でひずみが進行(リューダースひずみと呼ばれる)する降伏段が見られる.さらに,この降伏段においては弾性変形のみの領域と弾塑性変形領域が混在した不均一変形を示す.この特異な現象はスキンパス圧延(下図参照)やテンションレベラなどの材料成形プロセス下での軟鋼の変形挙動に大きな影響を与えている.このため,材料成形プロセスの数値解析を高精度で行うには,このような現象を正確に表現する構成式が必要不可欠である. そこで本研究では,降伏点現象とその後の降伏段での繰返し塑性変形挙動を同時に精度良く表現できる構成式を確立し,この繰返し粘塑性構成式を有限要素解析コードに組込み実用化することによって,この現象と関連した重要な材料成形プロセスの高精度数値解析を実現することを目標としている. ▲スキンパス圧延による降伏段除去の概念図 単軸引張りにおける実験結果と解析結果単軸引張試験および解析から得られる応力-ひずみ曲線 ▲左図に焼鈍した軟鋼の単軸引張試験における応力-ひずみ曲線を,右図に数値解析結果を示す.引張速度は0.0005,0.005,0.5(mm/s)の3種類とした.解析結果では,いずれの曲線も鋭い上降伏点からの降伏降下,降伏段,その後の加工硬化を表現することができている.また,実験結果と比較すると,降伏段での応力レベルは一致しており,さらに,加工硬化域におけるひずみ速度依存性の低下を良く表現できている.このことにより,本研究で用いている構成式の妥当性が確認できた. リューダース帯の伝播の様子(実験結果) リューダース帯の伝播の様子(解析結果) ▲上図に焼鈍した軟鋼の単軸引張試験におけるリューダース帯の伝播の様子を,下図に数値解析におけるモデル内の相当塑性ひずみの分布を示す.試験片の熱処理は700℃-1時間の条件とし,引張速度は0.005(mm/s)である.解析における相当塑性ひずみ分布は試験片を伝播するリューダース帯をうまく表現している. スキンパス圧延の解析スキンパス圧延概略図およびモデル ▲左図にスキンパス圧延の概略図と圧下率について,右図にスキンパス圧延解析に用いたモデルの模式図を示す.解析モデルは圧延方向60分割,板厚方向10分割(要素一辺0.06mm)で要素数600,節点数671である. スキンパス圧延解析における相当塑性ひずみの分布 ▲圧下率を0.5,1,2%と変化させて行ったスキンパス圧延解析におけるモデル内の相当塑性ひずみの分布を示す.平衡状態の相当塑性ひずみ分布を見ると,圧下率が小さいほど板厚方向に相当塑性ひずみの不均一性が大きい傾向となっている. スキンパス圧延後の引張解析スキンパス圧延解析後の引張解析概略図 スキンパス圧延解析後の引張解析から得られる荷重-変位曲線 ▲スキンパス圧延解析後の引張解析の概略図を上図に,圧下率を0.5,1,2%としたスキンパス圧延解析の後に引張解析を行って得られた荷重-変位曲線を下図に示す.下図より,圧下率が大きくなるにしたがって降伏段が徐々に除去されていることが確認できる.このことから,本研究で用いている構成式では適当な材料定数を選ぶことによってスキンパス圧延による降伏段の除去工程を表現することが可能であることがわかる. 本研究に関する論文・発表など・金田佑也, 山本茂雄, 吉田総仁: 降伏点現象を考慮した鋼の調質圧延の有限要素シミュレーション, 第55回塑性加工連合講演会講演論文集, (2004.11), pp.163-164. |