「弾塑性工学」という言葉は,当研究室の名前,そして研究分野を表す言葉ですが,機械系学科で学んだ経験のない多くの人にとっては聞き慣れないものだろうと思います.ここでは,そのような言葉の解説をはじめ,当研究室の研究内容に関連する事柄について説明しています.
「弾塑性(だんそせい)」という言葉は「弾性(だんせい)」と「塑性(そせい)」という二つの言葉をつなげたものです.弾性と塑性はいずれも材料の変形特性を表す言葉です.
ここで,金属製のバネを思い浮かべてください.手でバネを軽く引張ってその手を離すと,バネは元の長さに戻ります.このように力を抜くことで変形が元に戻る性質を弾性と呼び,そのような変形を「弾性変形」といいます.では,バネを思いきり引張るとどうなるでしょう.バネは伸びきったまま,元の長さには戻りません.このように力を抜いても変形が元に戻らない性質を塑性と呼び,そのような永久に残ってしまう変形を「塑性変形」といいます.
鉄鋼,ステンレス,アルミ,銅など,私たちの身の回りにある金属材料はみな弾性と塑性の性質を併せ持つ「弾塑性材」です.
私たちの身の回りには,「塑性加工」という成形加工法を用いて作られた金属製品が数多くあります.塑性加工とは,上で説明した塑性変形を利用して金属材料を所望の形状に成形する加工方法なのです.要するに,材料を変形させることによって製品を作り出すという方法です.塑性加工には,(1)生産速度が速い,(2)材料の無駄が少ない,(3)材料の「形」だけでなく「質」も変えられる……といった特徴があります.
ジュースの缶,自動車のボディ,アルミサッシなどから普段は目に触れない小さな機械部品まで,塑性加工を用いて作られた製品を数えたらきりがありません. これらの多くの工業製品は,私たちの先輩たちが経験と試行錯誤の積み重ねによって築いてきた塑性加工技術の賜物なのです.
そして今,塑性加工技術の更なる進展を目指して,「有限要素法」に基づくコンピュータシミュレーションの利用が急速に広がりつつあります.有限要素法とは,力学理論・数学理論・プログラミング技術の三位一体で作り上げられたシミュレーション手法です.有限要素法によって,金属材料が塑性変形して所望の製品に成形されて行く様子をコンピュータ上の仮想空間内で再現することができます.この仮想空間でのシミュレーションによって,より品質の高い製品をより早くより安く作るためにはどうすればよいかを調べることができるようになってきています.